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大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)99号 決定

抗告人 谷村一巳

相手方 田川二夫

〈ほか二名〉

主文

原決定を取り消す。

相手方らの本件申請を却下する。

原審の審判費用および当審の抗告費用はいずれも相手方らの負担とする。

理由

一、抗告人の本件抗告の理由は、「原決定に対し全面的に不服を申し立てる。父田川三衛および母くにが既に死亡した現在、抗告人みぎ両名間の三男ではないと云う事実を否定する。抗告人は戸籍簿上の記載を真実と信じている。」というにある。

二  記録に編綴された抗告人の戸籍謄本および亡田川三衛(改名前の旧名四郎)の除籍謄本(隠居による除籍謄本と死亡による除籍謄本の二通)によると、亡田川四郎が大正六年六月二一日にした出生届に基づいて、抗告人は大正六年六月一七日○○県○○郡○○村○○字△△△××番地において父田川四郎と母くま間の三男として出生したとして、田川四郎(その後三衛と改名した)の戸籍に入籍されたこと(抗告人が谷村姓を名乗っているのは、その後、縁組の養父母に当る谷村太郎および同人の妻せとと縁組承諾者に当る訴外亡田川四郎および同人妻くにが大正六年一一月一二日した届出に基づいて、抗告人が谷村太郎および同せいの養子となった旨が戸籍簿に登載されたからである。)および相手方らは亡田川三衛と田川くに間の子であることを認めることができる。

相手方らは、みぎ抗告人の出生に関する戸籍の記載に関し、抗告人は件外人土方幸太郎と同人妻いねとの間の子で、同人らの二男一巳と共に双生児として出生したのであるが、みぎ実父母の依頼を受けた件外人亡田川四郎がした虚偽の出生届に基づいて抗告人が田川四郎と同人妻くにとの間の三男である旨の虚偽の戸籍簿上の記載がされたのであるから、利害関係人である相手方らは、家庭裁判所の許可を得て、前記戸籍簿上の記載を抗告人が件外人土方幸太郎と同人妻いね間の子である旨の記載に訂正することができる、と主張するのであるが、当裁判所は、つぎに述べる理由により、相手方らの本件申請を不適法と考える。

本件申請の根拠法条である戸籍法一一三条によって戸籍の訂正をすることができるのは、訂正すべき事項が軽微で親族法上もしくは相続法上重大な影響を及ぼすおそれがない場合に限られるのであって、戸籍簿に記載された親子関係を否定し、当該子が戸籍簿上の父母と異なる父母または母の子である旨に戸籍を訂正するには、利害関係人は、戸籍簿に記載された親子関係に付いて親子関係不存在確認(戸籍簿上の父母が共に死亡した後は兄弟姉妹等関係不存在確認)の確定判決を得た上で、戸籍法一一六条一項による戸籍の訂正を申請することを要し、同法一一三条による戸籍の訂正を申請をすることは許されないと解するのが相当である。けだし、戸籍簿に記載された親子関係の否定のように親族法上も相続法上も法律関係に重大な影響を及ぼすおそれのある事項は、公開の法廷における争訟手続をもって審理し、当該戸籍簿上の父母または子その他の利害関係人はみぎ争訟の当事者として参加し各自の利益を擁護促進するために攻撃防禦を尽す機会を十分に与えた上で、既判力のある裁判をもってその当否を判定するのが相当であって、これら利害関係人らが裁判手続に参加の機会を与えられないおそれがあったり、その機会を与えられても、各自の利益を擁護促進するために攻撃防禦の手段を尽す十分な機会を与えられないおそれがあったりするような手続で裁判をするのは適当ではないからである。

以上の理由により、本件の場合には、相手方らは抗告人を被告として兄弟(または姉弟、兄妹)関係不存在確認の訴を提起し、その確定勝訴判決を得た上で、戸籍法一一六条一項所定の戸籍訂正の申請をすべきであって、同法一一三条所定の戸籍訂正の申請をなすべく家庭裁判所に訂正の許可を求めた相手方らの本件戸籍訂正の許可申請は、不適法として却下すべく、みぎ当裁判所の判断と異なる原決定は失当として取消しを免れない。

そうすると、本件抗告は理由があるから、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民訴法四一四条、三八六条、九六条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三上修 裁判官 長瀬清澄 古崎慶長)

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